世界中で石炭火力発電所の閉鎖計画

火力発電の黎明期から使用されている石炭を燃料とする石炭火力発電所。
石炭は世界中に広く分布しているし、他の化石燃料よりも安価であり、安定的に供給しやすい利点があり、ベースロード電源の燃料として使われています。

しかしながら、石炭火力は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量が最も多いため、地球温暖化対策の足かせとなっています。

また、煙突から噴出するばい煙が大気汚染を引き起こします。
日本では集塵装置等の対策設備のお陰で大気汚染対策が十分されていますが、このような対策がされていない国も多くあります。

2011年の中国の例では、北京、天津、河北省に存在する石炭火力発電所のばい煙が原因による、呼吸器疾患等の疾病で、9,900人が死亡したというデータがあります。

近年の気象変動を踏まえ、世界ではそのような課題がある石炭火力発電を順次廃止していく流れとなっています。

EUでの石炭火力発電所閉鎖計画

EUでは、早くから地球温暖化対策のために低炭素化を重視したエネルギー・環境政策が進められてきました。
2008年には温室効果ガスの排出量取引制度が始動しています。

EUの石炭火力発電所
EU15ヵ国のエネルギー源別発電シェアの推移

しかしながら、低炭素化に逆行するように石炭火力発電による電力量は2010年から2012年頃には増大していったようです。

そのような経緯もあり、石炭火力に対する規制が急激に強化されることになりました。

また、近年石炭のコストよりも再生可能エネルギーのコストが急激に低下してきていることから、頑なだった石炭火力を守る方針が転換されるケースも増えてきているようです。

ベルギー

ベルギーの石炭火力

2016年3月に国内最後の石炭火力発電所(556MW)を閉鎖。
電力需要の半分以上を原子力発電で賄っているが、2025年に原子力発電の全廃する方針。
代替電力の確保が急務となっている。

オランダ

オランダの石炭火力

2015年、1990年代に運転開始した石炭火力発電所5カ所を閉鎖。
2016年、議会にてCO2排出を2030年までに55%削減する目標を可決。達成するためには国内の石炭火力発電所10カ所すべてを廃止する必要があるとされている。

イギリス

イギリスの石炭火力

2012年、環境規制により、約5GW分の石炭火力発電所を廃止。
2013年、炭素価格下減制度など低炭素化に向けた政策を強化。実質的に石炭火力発電所の新設を認めない。
2015年、2025年までに国内すべての石炭火力発電所を廃止する方針を発表。

フランス

フランスの石炭火力

フランスは原子力発電を基幹電源ですが、2014年には原子力比率および化石燃料消費を抑制し、再生可能エネルギーの導入拡大を図る方針が示されました。
2016年、2023年までに石炭火力発電を廃止する意向を発表。
2017年、原子力発電所設備17基の閉鎖、石炭火力発電を5年以内に廃止する方針を発表。

スペイン

スペインの石炭火力

2012年に財政健全化の一環として石炭産業補助の大幅な削減を発表。
スペインの大手電力会社EDPは、石炭火力発電所は必要なものであり、当面の間は閉鎖するつもりはないとしていましたが、2020年方針を転換。
2025年までに国内すべての石炭火力発電所を閉鎖する方針となりました。

ドイツ

ドイツの石炭火力

世界有数の石炭産出国でもあり、日本以上に石炭火力に依存していたドイツ。
2011年、閣議にて2022年までに原子力発電所を廃止し、再生可能エネルギーを大量に導入する方針が決定。
2016年、気候保護計画2050が発表され、石炭火力発電を削減する意向が示される。
2019年に業界団体や近隣のコミュニティなど多くの市民も参加した委員会での議論の末、2038年までに国内すべての石炭火力発電所を廃止する方針となりました。

ポーランド

ポーランドの石炭火力

EU最大の石炭産出国で、国内の石炭火力発電は8割超えの国です。
国内の石炭産業を守るのもあり、EU全体の野心的な目標には反対しているようです。
しかしながら、今後のシェアが低下することを見込み、一定規模を維持しつつ、効率の悪い炭鉱は閉鎖し、高効率設備への転換を検討。
2019年には老朽化した石炭火力発電所の廃止に伴って、原子力発電所および洋上風力発電の開発、ガス火力発電所の新設などを進めていく方針が発表された。

イタリア

イタリアの石炭火力

2011年の国民投票で、原子力発電の再稼働に対する反対票が94%に。
近年はガス火力、石炭火力に比重を置いた電源構成にシフトした。
2015年に温暖化の敵となる石炭の利用増大への懸念が表明され、政策転換が求められている。
2015年10月に国内大手電力会社のEnelは、今後石炭火力発電所の新設を行わず、再生可能エネルギー電力のコスト削減やスマート技術に注力し、2050年までにカーボンニュートラルを実現する方針を発表。
2017年の国家エネルギー戦略で、石炭火力は2025年までに段階的閉鎖に向かう方針が採用された。

日本の石炭火力発電 閉鎖計画

日本では、需要電力をまかなうためには、現状では石炭火力発電に一定程度頼らざるを得ない、という論調です。

2011年の東北大震災以降、国内の原子力発電への風当たりは厳しくなってきているので、なおさら火力発電に頼らざるを得ない状況になりました。

原子力を止める代わりに海外から大量の化石燃料を輸入し、電気代を上げることで対応してきました。

石炭は他の化石燃料と比べて価格が安く、安定的に共有できるメリットがありますので、電源の中でも高い比率でした。

再生可能エネルギーも段階的に導入するために、固定価格買取制度(FIT制度)を設け、最初の太陽光発電ブームが起こりました。

とはいえ、この時点で微々たる普及状態の天候に左右される太陽光発電は安定的なベース電源になれるはずもなく、初期の制度の問題点や悪徳業者によって諸々の問題も起こり、太陽光発電の普及も限定的でした。

世界は脱石炭に進む中、日本は石炭火力発電は重要なベースロード電源として推進してきました。

古い発電所の廃止も求めず、2012年以降の新規石炭火力発電所の新規計画も全て容認してきました。
2018年では、電力の32%を石炭火力に依存しています。

※参考: なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?|経済産業省 環境エネルギー庁

そんな中2020年7月に、発表がありました。

『石炭火力発電100基を休廃止 』

石炭火力発電100基休廃止 30年度までに?政府方針:非効率型の9割
石炭火力発電100基休廃止|毎日新聞

非効率な石炭火力発電所の9割を2030年度までに削減する方針が発表されました。

先進国各国に遅ればせながら、ようやく「脱炭素」の取り組み強化の具体的な方針が出されました。

もちろん、この具体的方針発表に賛成ですし、温暖化予防策として喜ばしい事です。

しかしながら、
「国際的な批判をかわすために、出さざるを得なかったのでは。そもそも消極的だし、関係者の了承を得るのはこれからなので、実現性が低いのではないか」

という懸念の声も聞こえます。

実際に、北海道や沖縄など代替電源の確保が難しいところは無理だ、という意見も聞かれます。

せっかく出された具体的な方針ですから、着実に実現に向かって欲しいですし、関係者は可能な限り協力していってもらいたいものです。

 

一人当たりの二酸化炭素の排出量の多い国ランキング
1. アメリカ
2. 韓国
3. ロシア
4. 日本

全国地球温暖化防止活動推進センターより

日本は世界のワースト5に入っているわけですね。。他国を批判する前に、先進技術立国として、国民のモラルが問われているのかもしれません。


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