カーボンクレジットの課題と本質
現在、地球温暖化への対策として世界が動き始めているのは良い傾向です。
その一環として、企業が『カーボンクレジット』という仕組みを利用し、自社のCO2排出を相殺する仕組みを取り入れている事例が増えています。
しかしカーボンクレジットについて理解している人は少なく、ましてやその課題や問題は浮き彫りになっていません。
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カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットとは、企業が自社のCO2排出を相殺するために使う仕組みです。
具体的には、企業は温室効果ガス削減や吸収に取り組む案件(例えば、森林保護)に資金を提供し、その代わりに、案件が減らした分の排出量をクレジットとして得られます。
これを自社の排出量から引くことで、自社のCO2排出を削減していると主張できる、という仕組みです。
カーボンクレジットの発行量は近年約7年間で5倍に増えています。
これは企業がこのシステムを活発に活用している証拠と言えるでしょう。
しかし、このシステムの中で浮上してきた疑問とは、「カーボンクレジットは本当に効果的なのか?」ということです。
カーボンクレジットの課題
カーボンクレジットの課題として一例を見てみましょう。
先住民族と森林保護プロジェクトの取り組み
カーボンクレジットの森林保護プロジェクトの一環として、一部の地域が国立公園としてその一部となりました。
しかし、この制度が実施された結果、何千年も前からその地域に暮らしてきた先住民族が森での生活を禁じられるという矛盾が生じています。
キチュアの人々は、500年以上もの間、森と共に生きてきた民族です。森の恵みを次の世代に繋げるため、森を守る生活を送ってきました。しかし、国立公園の設立に伴い、彼らは自分たちが保護してきた森を管理する権利を奪われ、森林保護プロジェクトから排除されました。
この事態に対し、彼らは森に対する権利を認めるよう裁判を続けています。
ここで問題となるのは、森を本当に大切にし、保護してきたのは先住民でありながら、カーボンクレジットのプロジェクトによって森の管理が先住民から奪われ、森林保護の言葉が空っぽになってしまったのではないか、という点です。
森林保護プロジェクトの計算問題
研究者、タレス・ウェスト博士はカーボンクレジットのシステムについて調査し、その計算方法に問題があると主張しています。博士は大量の衛星データを統計的に分析し、プロジェクト運営者が提供する森林破壊の予測と実際の場の情報を比較しました。
その結果として、【予想される森林破壊の量が、プロジェクト運営者の試算よりもかなり少ない】という事実が露呈しました。
つまり、森林保護プロジェクトの効果が過大評価される一方で、企業は有効性の低いカーボンクレジットで自社の排出を削減していると主張しているわけです。
ウェスト博士の研究によると、30のプロジェクトのうち、27箇所でクレジットの効果が見過ごされていたとのことです。
つまり、大半が水増しされた偽の効果で、CO2の削減をうたわれていた、という現実があったわけです。
このような状況を改善するためにはどうすればいいのでしょうか。
カーボンクレジット:改善策とレシピ
ここで必要なのは「正確な情報」と「改善の意欲」です。認証機関がプロジェクトの効果を客観的に評価し、その情報を企業と共有する必要があります。また、ウェスト博士のように、データ解析を用いてプロジェクトの実際の効果を検証する独立した専門家の存在も必須です。
とはいえ、悪意を持ってクレジットの効果を水増しする企業やプロジェクト運営者ばかりではありません。多くの企業は、誤ったレシピに従ってカーボンクレジットを取り組んでいます。
つまり、悪意ではなく、誤った知識や情報が問題を引き起こしている場合も多いようです。
この状況を修正するためには、簡潔で正確な情報と具体的な指南が必要です。
具体的には、専門チームが新たなプロジェクトの効果を厳密に確認するため、衛星データを使って見積もりの精度を上げる努力をしています。さらに、そのプロジェクトが脱炭素につながっているかどうか、またプロジェクトの周辺エリアに貢献しているかどうかといった点についても注視しています。
こういった努力の継続により、企業は自社の排出を適切に削減し、またクレジットを生成する案件も真の価値を提供できるようになると思われます。
カーボンクレジットの本質と私たちの立場
カーボンクレジットの本質は、私たちが地球に与える影響を理解し、責任を取ることにあります。
カーボンクレジットの目的は、「見えないCO2排出を見える化し、その負のインパクトを削減する」ことです。
さらに深堀りすれば、「私たちの行動が地球にどのような影響を及ぼすのかを正確に理解し、その結果を改善するための方法を追求する」ことが最終目標となります。
しかしながら、今後もカーボンクレジットは高まる疑念に直面するでしょう。
企業も消費者も、誤りや不正がある場合にはそれを確認し、正す手段を持つべきです。
そして何より、私たち自身がカーボンクレジットという仕組みを理解し、その意義と限界を把握することの重要性を理解して、より社会改善を促す立場で言動していく事だと思います。